本記事では、「コピーライターはセンスやひらめきで言葉を生む職業である」という世間の根強い誤解を解き明かします。コピーライター歴30年の私が、実際の仕事の進め方やクライアントとの向き合い方を具体的に紹介しながら、コピーライティングの正体が「ひらめき」ではなく「膨大な調査と対話の積み重ね」にあることを明かします。
コピーライターは「センスあふれる言葉がすぐに出てくる人」「すごい言葉が降ってわいてくる天才的な人」「ずっとコピーを考えている仕事」「ギョーカイ人なのね」と勘違いされることが多い職業です。それは大きな誤解。まったくもって違います。今回は、私が実際の仕事の進め方を紹介しながら、その誤解を真剣に解きます。
詩人でも芸術家でもありません
自分が勤める会社の支社のあいさつ文を書いてほしいと親しい人から頼まれたことがあります。有名な会社だったので会社のことは調べればわかるのですが、支社のことまでは知りません。「支社にはどういう歴史があって何を伝えたいの?とりあえず支社のプロフィールがわかる資料をちょうだい。オリエンして」と答えたら驚かれました。でも、個性や具体性を盛り込まないあいさつ文なら、私に頼まず、本社のあいさつ文やネットに載ってるあいさつ文をコピペすればいいのです。
目の前にあるもの、たとえばリンゴをおしゃれに表現してみてと言う友人もいます。でも、あるJAさんが画期的な品種改良をしたリンゴなのか、再生エネルギーの会社が取り組んだ新規事業で栽培したリンゴなのか、ひと口大なのか、ジャムにだけ向いているのかで全く違います。商品の背景や企業の込めた想いを知らなければ書けません。
オリエンを受けてから書く(※)。調べてから書く。それがコピーです。
※自主提案を除きます
書いている時間は意外と短いです
コピーライターのことを「机に向かってずっと言葉を考えている人」「PCに向かってうんうんうなってコピーを書く仕事」「一人でもくもくとできる仕事」と思っている人もいます。
たしかにコピーを書くときは一人です。でも、コピー作業に至るまでにはコミュニケーションが必須。なんならコミュニケーションの中でコピーの大枠ができることもあるし、書く以外の作業もいっぱいあります。
まず、オリエン、クライアントとの打ち合わせ、社内打ち合わせや制作サイドの打ち合わせ、制作途中の打ち合わせなど、mtgが複数回。対話やヒアリングなしではこなせません。自分一人の作業としては、資料を読む、調べる、情報を整理する、ときには街へ出て売り場や現場を見に行くなど多岐にわたります。
このような“書くための準備”をするうちにキーワードが出ては消したり整理をしたりしつつ、落としどころが明確になっていき、コピーへと至ります。コピーを書くのは、仕事全体のほんの一部。それが実態です。
意外と普通のビジネスパーソンです
ギョーカイと書く時点で私の年代がバレてしまいますね。
代理店のイメージが強いからか、普通の人とは違う派手さや特異なセンスの持ち主と想像されることもあります。
すべての人が違うとは断言できませんが、おおよそ違います。もちろん、その人なりの世界観や趣味は持っています。ですが、前述のようにmtgもするし、事務的な作業も多い。新しい視点や攻めの姿勢が必要なのと同時に、商品を買ってくれる生活者と同じ感覚も求められます。普通のビジネスパーソンの一人です。
ただ、代理店や制作会社は、官公庁や銀行と比べると自由が許されている傾向です。ちょっとフレキシブルだったり、目をつぶってもらえることが多かったり。そもそも相互に厳しくチェックし合う風潮が少ないのは認めます。また、営業さんやディレクターなどのほうが「ギョーカイっぽい雰囲気」の割合が高いかもしれません。
最後に(まとめ)
コピーは「降ってくる」ものではない: コピーの裏側には、企業の歴史や商品の背景、そしてターゲットの心理を徹底的に深掘りする準備プロセスが不可欠であり、事前の調査なくして言葉は生まれません。
「書く」以外の作業が9割: コピーライターの仕事の大半は、打ち合わせや情報収集、資料整理などのコミュニケーションと分析です。言葉を紡ぐ時間は、そのすべての積み重ねの結晶に過ぎません。
普通のビジネスパーソンとしての素養: 派手なイメージを持たれがちな職種ですが、実際は生活者の感覚を大切にし、論理的かつ着実にクライアントの課題解決をめざす普通の社会人です。

