本記事は、コピーライターとして30年にわたり働く中で避けて通れなくなった薬機法と、実務でどのように向き合ってきたかをまとめた記録です。記事の内容は、投稿時点での筆者の見解や体験に基づくものであり、法的アドバイスや個別の広告表現の適法性を判断するものではありません。広告制作・出稿にあたっては、必ず管轄行政庁、法務担当者、専門家などの最新情報を確認してください。
コピーライターというと、尖った個性的な言葉を考える人というイメージがつきまといます。もちろん、印象に残る言葉をつくるのもコピーライターの大切な仕事です。でも、実際の現場では、商品を正しく伝えるためのコピーを求められることもあります。
私がコピーライターとして仕事を始めてから30年。その間、さまざまな商品に触れる中で、当たり前に求められる知識になったのが「薬機法」です。昔なら通用した言葉が、法律の壁で今は使えない。こんな言い回しもダメなの?とクライアントからの修正指示を受けて知って驚いた人もいるかもしれません。
今回は、コピーライターと薬機法とのかかわりの変遷、そして実際の仕事で薬機法とどう付き合ってきたのか、私の経験をもとにお話ししたいと思います。
薬機法、その昔は薬事法
この記事は、薬機法そのものを詳しく解説するものではありません。健康食品や化粧品の広告制作にかかわるコピーライターが、実務でどのように法律と向き合うかを、自身の経験をもとに紹介します。
その前提として、まず薬機法がどのような法律なのかを簡単に確認します。
「薬機法」の正式名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」。少し長い名前ですが、以前は「薬事法」と呼ばれていた法律です。2014年の改正によって、現在の「薬機法」という名称になりました。
この法律は、医薬品、医療機器、化粧品などの品質、有効性、安全性を確保し、適正な使用を守ることを目的としたものです。広告表現を考える際にも、商品の種類や表示内容に応じて、その範囲を理解しておく必要があります。
薬機法という名前になってから急に広告表現への規制が始まったわけではありません。薬事法と呼ばれていた時代から、健康や美容にかかわる商品を販売する際には、表現について十分な注意が必要でした。
薬機法は時代の変化に合わせて定期的に見直され、改正されています。さらに2009年には消費者庁が発足し、商品表示や広告全般について、消費者保護の視点がより重視されるようになりました。こうした流れの中で、広告にたずさわる人に求められるコンプライアンス意識も高まってきたと感じています。
一部の人が知る存在だった薬事法
薬機法の前身である薬事法は以前から存在し、健康食品や化粧品を販売する企業にとって、広告表現を考えるうえで重要な法律でした。私がコピーライターとして長く仕事をしてきた中で感じるのは、認知度や遵守のレベルが昔と今では大きく変わってきたということです。
私がコピーライターになった当時、薬事法を特に意識していたのは、健康食品や化粧品を扱う企業、その広告制作を担当する一部のスタッフなどが中心でした。さらに、昔は化粧品といえば化粧品メーカーがつくるもの、というイメージがありました。
しかし今では、もともとは別分野の企業が新規事業として化粧品を開発するようになりました。高齢化を受けて、さまざまな業種の企業が健康食品事業に参入するようになったこともあり、こうした商品を販売する企業が増えています。通信販売やインターネット販売の成長も後押しとなり、市場そのものも大きく広がりました。
私自身、健康食品や化粧品の案件へのかかわりが以前より多くなりました。この分野の市場が拡大し、広告制作のニーズも増えてきたのだと感じています。
参入する企業が増え、扱われる商品の数や広告量が増えれば、それだけ消費者の目に触れる機会も増えます。その中で広告表現が問題になるケースも増え、薬機法を理解して遵守することが広告制作における基本的な前提として浸透してきたという体感があります。
なぜなら数十年前は、「薬事法はグレーでいきたい」、つまりグレーゾーンすれすれのところで表現したいと言うクライアントも多かったのです。でも今、私が知るクライアントにそんなことを言う人はいません。コンプライアンス上、「必ず守らなければならないもの」として受け止められています。
近年では、企業の広告だけではなく、ブログやSNSで商品を紹介する人も増えました。ブロガーやインフルエンサーなどの個人が商品を紹介する場合にも、薬機法を意識する必要があると認知されてきているようです。
このような背景から、以前は一部の関係者が知っておくものだった薬機法が広く知られるようになり、広告制作関係者にとっての重要性も高まってきたといえるでしょう。
薬機法の全文を覚える必要はない
ここまで薬機法について書きましたが、健康食品や化粧品などの仕事にかかわるコピーライターなら、薬機法の全文を暗記する必要はありませんが、「薬機法という法律があり、商品の表現には制限がある」という基本的な知識は身につけておく必要があります。実際に読んでみると、専門的で難解な文章ばかりではなく、注意すべき表現をわかりやすく例で示してくれている部分もたくさんあるので、一読しておくと役立ちます。知っておくに越したことはありません。
一方で、細かな制限ばかりに意識を向けすぎると、案出しのときに可能性をみずから狭め、コピー表現が萎縮してしまい、意外性のある提案が減ることも。知識を持ちつつも、制限される機能や効果だけにとらわれず、別の視点へ目を向けて表現を磨くことが大切です。わかりやすく言うなら、「機能性=健康効果」という軸に縛られず、「その商品がある明日の暮らし」「家族の時間」「人生そのもの」へと訴求の軸を移すのもその一つです。
実際の仕事でどこまで薬機法を深く理解して使いこなせる必要があるかは、案件の種類や範囲によっても変わります。わかりやすく例えれば、大キャンペーンのコンセプトやキャッチコピーを考えるなら、「これは機能性表示食品じゃない一般的な健康食品だから“疲れ”って書けないかもね」くらい知っておけば、細かいレベルの表現まで把握していなくても現実には進みます。
なぜなら、キャッチコピーは商品の機能や効果を細かく説明するものではないからです。一方で、商品説明となるボディコピーを書いたり、広告販促ツール全体の制作にかかわったりする場合は、薬機法の理解がより必要になります。ライティングするボリュームが多くなればなるほど、商品の特徴に詳しく触れないわけにはいかず、商品の種類や表示区分に基づいた適切な表現の判断が求められる場面が増えるからです。あまりにもクライアントからの訂正が多いと、「この人にライティングを任せ続けるのは難しそう」と思われてしまうおそれもあります。
「薬機法、知っています」
「コピーライターさんが『薬機法、知っています。大丈夫です』と言ったので仕事をお願いしたのですが、納品されたものを見たら、実際にはほとんど理解されていないことがわかりました」
「今どき“疲れ”って書くなんて・・・、びっくりしました」
クライアントからこんな話を本当によく聞きます。「疲れ」などの言葉は、健康食品の種類や表示内容、広告全体の文脈によって判断が変わります。特に、商品の働きを示すような表現として受け取られる場合には、表示できる根拠があるかを確認する必要があります。
それにもかかわらず、薬機法という言葉は知っていても、実際の広告表現でどのような点に注意すべきかを理解していないコピーライターがいるのも事実。クライアントが「薬機法を知っていると言っていたのに、なぜこの表現になったのだろう」と驚くケースは、残念ながら珍しくありません。
薬機法という言葉を知っていることと、実際に広告表現として使える言葉・使えない言葉を判断できることは、同じではありません。健康や美容の広告では日常会話で普通に使っているような言葉でも注意が必要になり、「疲れに」といった表現もその一例。商品の種類や届出内容によって認められる表現の範囲は異なり、例えば「疲労感をやわらげる」などの機能性を表示できる食品についても、商品の区分や届出内容など一定の条件があります。
「大丈夫です」と答えて受注したなら、先に挙げたクライアントのように「今どき“疲れ”って書くなんて」と感じてしまうのも無理はないといえるでしょう。
知らなさすぎても従いすぎてもいけない
先の項目で書いたように、健康食品や化粧品の仕事にかかわる以上、コピーライターは薬機法を避けては通れません。
約30年前は、今のようにインターネットで情報を検索すれば答えが見つかる時代ではありませんでした。クライアントにも今ほど知識やノウハウが蓄積されておらず、どこまで広告表現として認められるのかの判断基準もよくわからず、それでも法律に抵触する提案はしたくないと考え、表現に迷ったときは、事業者の所在地を管轄する行政に電話をかけて確認したこともあります。
担当窓口が全国で統一されていたかは定かではないものの、事業者の所在地を管轄する自治体の「薬務」や「福祉」といった名前の部署の場合が多かったです。「薬事法に違反したくないので電話しました」と伝えて相談すると、担当窓口の方はとても丁寧に話を聞いてくださり、考え方や注意すべき点をわかりやすく説明してくださいました。広告表現を考える立場として、法律を守りながらよりよい表現を探すために、こうした確認先があることは心強いものでした。
市区町村が開催する薬事法の説明会に申し込んだり、広告代理店や制作会社の人と一緒にセミナーに参加したりもしました。インターネット情報が今ほど充実していなかった時代のことです。
現在は、広告表現が薬機法などに抵触しないかをチェックする専門サービスもあり、多くの企業が出稿前の確認を依頼しています。クライアントの担当者も薬機法に関する知識を持っています。「これはNG、こうしてください」というチェックができる人が世間には一定数います。
では、NG表現を知り、無難な代替表現にしてしまえばよいのかというと、それは違います。クライアントは私たちコピーライターにギャラを支払ってくれています。「言い換えて済むならコピーライターいらん!」と思いませんか?
「この商品を使うとどんな生活になるのか」
「どんなうれしい変化を感じられるのか」
「私の悩みにどのように寄り添える商品なのか」
たとえば、疲労感がとれる商品をそのまま「疲労感がとれます」と書くのではなく、雲の上にぷかぷか浮いている気分を想起してもらうことで、疲れがとれたあとのすばらしさを伝えられないか。商品のそうした世界観や価値を、NG表現を知った上でより効果的に伝える、または許される表現の中で最大限に商品の魅力が伝わる方法を考えたり組み合わせたりする。それがコピーライターの仕事です。
当たり前ですが、知らなさすぎるのは論外です。先に書いたように、訂正が多すぎるとクライアントの負荷が高くなり、スムーズな進行を妨げます。
これに関してはおもしろい話も聞きました。大企業では、法律の専門知識を持つ担当者が属する社内の法務部門などが、薬機法や景表法、コンプライアンスなどをかんがみて広告表現を総合的な視点で確認するケースもあります。大手広告代理店にもそのような業務をする部署があります。ある制作物をクライアント社内の担当部署へチェックに回したところ、リスクを避けるためにあらゆる箇所に修正が入り、最終的には「文章がなくなっちゃいました」という事件があったそうです。
知らなすぎても、従いすぎてもいけない。薬機法と向き合うにはそんなバランス感覚が必要だと考えています。
薬機法案件の私の実務
このセクションでは、私が実際にどのようなステップで業務を進めているのか、クライアントにどんなことをヒアリングしているのか、具体的な手順をご紹介します
商品企画
継続的な関係性のあるクライアントは、開発段階の商品について話してくれたり表現の相談をしてくれたりします。ときにはネーミングからかかわることもあります。広告紙面になったときに伝わりやすくわかりやすくなるようにという視点で要望を伝えたりします。
オリエン
「機能性表示食品」の場合は、消費者庁への届出が完了したとクライアントから連絡があったら、あるいは「こういう商品のオリエンがあります」と聞いたら、消費者庁の「機能性表示食品検索」から該当商品の資料をダウンロード。機能性表示食品検索は消費者庁が公開しているもので、データベースにある届出情報に誰でもアクセスできます。広告表現を考える際には、この資料に記載された届出内容や根拠を確認し、それを超える表現にならないよう注意します。
オリエンでは商品の特徴や機能、開発背景や自社商品の中での立ち位置、競合商品、訴求したいことなどを教えてもらえます。大手広告代理店経由の場合は、調査結果などのマーケティングデータなども用意したうえでオリエンしてくれます。
届出内容を先に見ておくと商品の特徴や機能は理解できているので、深い話や周辺の話がすぐにできます。たとえば、届出書類にはあまり載っていない、産地や栽培方法といった素材そのものの魅力、成分が生まれた背景や開発秘話などもヒアリング。ヘルスクレームが複数ある商品も珍しくないので、最初にどの機能を打ち出すかなども確認。同じ成分や同じヘルスクレームの商品は似た広告表現になりがちなので、他社とかわり映えのない印象にならないよう、ビジュアル面も含めて詳細に協議することも多いです。
余談ですが、あるmtgでヘルスクレームという言葉を初めて聞いたスタッフが、「クレームということは、苦情のことですか?」と勘違いしていたことがありました。ヘルスクレームとは、健康食品などで表示できる健康への機能や効果についての主張のこと。普段使わない人にとってはなじみのない言葉です。
機能性表示食品ではない「健康食品」の場合は、機能性表示食品のように、届出された機能性を表示することも、コピーで表現することもできません。それでも健康への働きを訴求したいと多くのクライアントは考えているので、認められる表現の範囲の中でどのような切り口なら商品の魅力が伝わるのかを考えます。たとえば、健康食品の広告では「腸内環境」と表現できなくても、素材へのこだわりや毎日の続けやすさなど、別の魅力をどう伝えるかを検討します。もちろん、そのときの課題や方向性に応じて、製法や品質、ブランドの考え方、あるいはタレント起用など、別の切り口を探していきます。
化粧品についても基本的には食品と同じ進め方です。有効成分を配合して美白や抗シワといった具体的な働きをいえる「医薬部外品」は、有効成分による一定の効能・効果の訴求が可能。広告表現を考えるうえでは機能性表示食品と似た側面があります。医薬部外品ではない「化粧品」は、標ぼうできる21の効能効果が定められているので(スキンケアの場合)、それを踏まえつつ表現を考えます。
実制作
オリエンでの方向性に基づき、薬機法をクリアしたコピー表現を考えます。初めてたずさわる商品ほど、提案の数を増やします。新商品かすでにある商品のてこ入れか、ボディコピーでふんだんに語れる紙面かどうか、掲載媒体などによってもニュアンスを変えるのは当然のことです。

デザイナーとも話し合い、どのビジュアルにどのコピーが合いそうか、どうすれば文字数がフィットするかなどを検討して調整を重ねます。
フィードバック
私の経験では、広告や販促を担当する部署とは、「これ、いいですね」「この案でいきたいです」とすぐさままとまることが多いです。同時に、「こう言いたいのですが、○○部(チェックを担当する部署)や○○社(外部のチェックサービスの会社)がどう見るかですね」という点も説明し、認識を合わせておきます。
商品を売りたい担当者からすると、「この魅力をもっと前面に出したい」という気持ちがあります。一方で、薬事や法務の担当者は、違う側面から確認します。フィードバックがあってもその通りに修正するのではなく、「ならばこの言い方はだめなのか」と確認を重ね、最大限に伝わる表現を追求します。しつこいですが、言い換えるだけで済ませないのがコピーライターの価値だと思います。
ただし、新聞社の校閲で修正が入った場合は、掲載日に合わせて入稿しているため、何度も確認する時間もなく、残念ながら納得できない表現で終わることもあります。
一般的にコピーライターは薬機法の最終判断を担うわけではありません(そういう契約なら話は別です)。通常は、クライアントが出稿の最終判断をくだします。だからといって、コピーライターが薬機法を知らなくてよいわけではありません。いわゆる「話がわかる人」がいたほうが、何事も進みやすい。表現の意図を理解し、チェックで大幅な修正が発生しないよう、基本的な知識を持って制作に挑むことが求められています。
そして特にフリーランスの人に伝えたいのが、クライアントのコンプライアンス意識を慎重に見極める重要性です。「薬機法を無視してもよいから売りたいのでよろしく」「薬機法を知っているなら判断してほしい」などと言うクライアントがもしいたら、そのリスクや結果をよく想像してみてください。ときには受注を見送るという選択肢もあると思います。
その後の展開
一度だけで終わるケースは少なく、次の展開や別のツール制作などが待っています。初回で提案した内容をもっと“こなれた”表現にしたり、より詳細な情報を掲載したり、調査や購入者の反応をもとにアプローチしたり、新たな側面をクローズアップしたりとさまざまです。
最初に消費者庁への届出情報を読んでおけば、把握している情報が多いので何かと役に立ちます。たとえば「開発部門の担当者に話を聞いてみよう」となったとき、ヒト試験(臨床試験)の詳細もわかったうえで質問できます。「こんなに突っ込んだ質問をされたのは初めてです。本当にお詳しいですね」と何度か言われたことがあり、それは迷惑というより自分たちが開発した商品への深い興味と受け取ってくれている反応なので、同席している広告や販促の担当者の顔が立つことにつながったりと、副次的な効果もあります。
最後に(まとめ)
薬機法は遵守する:暗記までする必要はないが、理解したうえで提案するのが基本。全く知らないと制作物として話にならない量の訂正が発生し、安全策に走りすぎると制作物の独自性がなくなります。
言い換えて済むならコピーライター不要:NGワードを指示通りに言い換えるだけならクリエイティブを発揮する余地がない。商品の世界観やその商品によって生まれる暮らしを伝えるなど、商品の価値を翻訳して伝えます。
調整役でもある:薬機法、チェックを管轄する部署、制作物を発注する部署、それぞれの意図と役割を正しく把握して調整しながら最良の表現を提案するのがコピーライターの役目です。
30年前の私は、役所へ電話をかけながら表現を確認したことも何度かありました。今は検索すれば多くの情報が手に入り、専門のチェックサービスもあります。それでも、「この商品の魅力をどう言葉で伝えるか」を考えるコピーライターの仕事の本質は変わりません。薬機法を知ることはゴールではなく、その先にある表現を考えるためのスタートラインなのです。
注意
本記事は、個人の30年にわたる実務経験に基づく内容であり、広告表現の適法性を保証したり、法的判断を提供したりするものではありません。広告制作・出稿にあたっては、必ず管轄行政庁や法務担当者、薬事・法務の専門家などの最新の判断を確認してください。
参考資料
正確な情報は、以下の各省庁の公式ページをご確認ください。
