【誤解を解消】コピーは長いより短い方が難しい

本記事では、コピーライター歴30年の経験をもとに、一見「簡単そう」に見える短いコピーの難しさと、その理由や本質を解き明かします。

コピーライターを続けて30年以上。「こんなに長い文章を書けるなんてすごいですね」「この長いボディコピー、どれくらい時間かかるのですか?」「取材や対談記事、私にはとてもできません」といったことをよく言われます。今回はコピーの長さや難易度について私の実感を紹介します。

「長いほうが大変」はちょっと違います

「長いコピーは難しそう」「取材や対談の長い記事なんてどう仕上げるの?」と言われることが多々あります。制作業務のことをよく知っている人からは言われませんが。

私の実感では「長いコピーよりも短いコピーのほうがはるかに大変」です。次項から詳しく説明します。

短いコピーは一言にすべてを込める仕事です

「100案出せ」と本当に言われて育った私の今で書いたように、新人時代はキャッチコピーやネーミングの案出しで鍛えられました。ボディコピーもつくっていましたが、せいぜい数百文字でした。では、ボディコピーと比べてどちらが難しいかというと、断然キャッチコピー(やタグラインやネーミング)です。なぜ短いほうが難しいのか。私の体感をもとに説明します。

キャッチコピーはたくさんの人に新しい価値を伝えたり魅力に気づいてもらったりするもっとも重要な言葉。ビジュアルとも連動して、広告や販促活動を大きく左右します。何らかの新しさや発見、強さが必要です。そんなワードは簡単には生まれません。私が「このコピーはけっこういいかも」と思っても、クライアントや関係者全員が納得する出来栄えでなくてはならず、「この要素は言い得ているけど、もう少しこのことも匂わせたい」「この言葉でこのターゲット全員に理解できるか」「これは言いたいことではあるけれど競合他社でも言えそう」などさまざまな視点から検証されます。

みんなが納得するコピーを出さないことには私の仕事を完遂したとはいえないので、これでもかというほどにいろんな方向から案を考えます。よって、提出前はドキドキです。

余談ですが、一般的に短いコピーほどギャラが高いです。1文字あたりで換算するのは私の趣味ではありませんが、1文字あたりの価格がweb用の長文よりはるかに高額なのは確かです。ですが、それを生み出してクライアントがOKを出すまでにはさまざまな工程や企画書が必要であるという裏側はあまり知られていません。これが、「おいしい仕事」と誤解されがちな理由の一つです。

「100案出せ」と本当に言われて育った私の今
広告制作では「100案出せ」と教育される文化が昔からあります。私も30年前の新人時代にそう言われました。一見すると非効率にも思えるこの習慣ですが、私の実務では修正を減らし、仕事をスムーズに進める助けになっています。

長い文章は積み上げて完成させる仕事です

新聞広告のコンテンツである取材や対談記事、web用の長めのコピーなどを書くようになったのは、中堅になって以降です。新聞広告のコピーは若い頃もつくっていましたが、取材などの長文の経験はありませんでした。

では、長めコピーとキャッチコピーなどの短いコピーとではどちらが難しいか。断然キャッチコピーです。3000文字の文章を書くよりもキャッチコピーやタグラインのほうが難しく、そして荷が重いです。

誤解を避けるために説明すると、コピーライターの仕事では「3000文字書いてください」という依頼はされません。伝えるべき情報があって、結果として3000文字になるならそれもアリ。クライアントの多くは「読みやすくわかりやすく」を望むので、そんなに長くなるなら分割しましょうとなることもままあります。

話を戻し、3000文字がキャッチコピーほど難しくないのは、伝えるべき情報が入って読みやすく正しい日本語でクライアントのトンマナ(トーン&マナー)で書かれていればそれで成立します。加えて、私の体感として、長文は短いコピーほど一語一句を細かく検証されない傾向があります。「プロに任せているのだから大丈夫だろう」という好意的な前提、長文だからチェックが行き届かない、おかしなことを言っていなさそうだからOKを出すなど、複数の理由が考えられそうです。

こう書くと長文のライティングを見下して簡単にこなしているようですが、そういうつもりもありません。まず構成案で全体の流れをクライアントに確認してもらった上で、どういう冒頭にしようか、リード(小見出し)はこういう感じで揃えようか、このキーワードは先に登場させようかなど、考えうる範囲で小さな提案や検証を盛り込んで書きます。

また、1000文字書くのと3000文字書くのとでは必要な時間が違います。当然ながら文章が長ければ長いほど「作業」の時間は必要です。でも、必要な時間を費やせばゴールに到達はできます。キャッチコピーはゴールが果てしなく遠い場合もあり、ゴールに到達できない不安も抱えつつ考えます。これが、短いコピーと長いコピーの違いであり、短いコピーのほうが難しいと私が感じる理由です。

「長文は難しい」を考察してみました

私の推測にすぎませんが、「長文は難しいのにすごい」と言う人は、素晴らしい文章を書かなければならないと思っているのではないでしょうか。もしかしたら、学生時代の作文や論文に苦手意識があったのかもしれません。そしてキャッチコピーのことは、短いからなんとなく思いつけそうだと想像しているのかもしれません。

実際にはその短いコピーに決着するまでに、オリエンから始まり、さまざまな調査や検証やアイデア出しを経ています。その過程はまだまだ知られていないと感じていて、それが私がこのブログを書いている理由のひとつです。

最後に(まとめ)

言葉の重みの違い: キャッチコピーは一言に新しい価値や発見を凝縮し、多くの関係者の検証をパスする必要があるため、想像以上のプロセスと作業負荷から生まれます。

制作プロセスの差: 長文は構成を積み上げればゴールが見える「作業」としての側面が大きい一方、短いコピーは正解が見えない中で試行錯誤を繰り返すため、難易度が格段に高いのです。

見えにくい裏側: 短いコピーが「おいしい仕事」と誤解されがちなのは、その背後にある膨大な調査や企画検討のプロセスが、制作側ではない人には伝わりにくいからだと考えています。