本記事では、数々の修羅場を乗り越えてきたコピーライターの視点から、フリーランスが適正な関係を築くために「受けるべき仕事」と「断るべき仕事」の境界線を、実例を交えて解説します。
コピーライター歴30年の私。声をかけてもらった仕事は基本的にはありがたく受けています。でも、せっかくいただいた新しい仕事の依頼を残念ながら断ることもあります。単に安いから断るわけではないのです。今回は、私が仕事を断るときの考え方や事例を紹介します。
理想的な仕事とは?
最初に、コピーライターや制作者にとってよい仕事とはどんな仕事でしょうか。
- ギャラが高い
- 納期に余裕がある
- 訂正や変更が少ない
- 好きなようにさせてくれる
- 楽しく取り組めるメンバーばかり
- 華がある(規模が大きい・作品として残る・クライアントが大手など)
- やりたかったクライアントや商品である
- 付随してほかの仕事も発生する
ざっと思いつくのはこんな感じです。でも私もこんな仕事ばかりできると思うほど愚かではありません。そもそもこんな仕事は普通に転がってはいません。
私が価格を理由に断ったレアケース
記事タイトルに反しますが、「ギャラが安い」という理由で断ったことが実はあります。でも数えるほどしかありません。おそらく3度です。
1回目は、付き合いのある制作会社の、これまで面識のなかった営業さんからの話でした。本当にありえない!と憤慨するほどの予算を聞き、不可能だと伝えました。数十ページの冊子もので、ン十万円でした。ありえません。「小春さんが書かず、外注してくれてもいいです」と言われたものの、「この価格でやってくれる知り合いはいないし、言い出せない」と答えました。でもとりあえず見積もりをくださいと頼まれたのです。
話はそれますが、私はコピーを書くのが仕事なので見積もりは面倒くさいことこの上ない作業。見積もりつくるギャラをちょうだいと思いながらいつもつくってます。
予算と現実がここまで大きく乖離していたら歩み寄る余地もなく、受注しない前提で高めの見積もりを出しました。見た途端に先方は「わかりました、編プロ探します」とあきらめてくれ、そのやりとりは終了となりました。ちなみに、その営業さんとは後日、別件で何度かお仕事をしました。あるとき、数か月たっても請求の話がないので問い合わせたら退職していました。
2回目は、普段は制作物を発注しないような業種のクライアントから打診されたという制作会社からの話でした。付き合いのある制作会社の営業さんが申し訳なさそうに「おそらくびっくりするほど常識外れの予算を言ってくる気がします」と前置きしつつ、私に失礼があってはいけないからと気を遣いながら価格のヒアリングがありました。
その営業さんはとてもいい人。文字数も少なく、難易度が低そうな仕事だったので、最低価格を伝えつつ、調整もOKと添えました。ですがクライアントは数千円と思っていたそうで、「本当に申し訳ありません」と連絡がありました。数千円って・・・。mtgを少ししたらそれくらいのギャラ分になってしまいます。
3回目は、付き合いのあるweb制作会社でした。「短めでよいので」と1記事数千円を提示されました。継続ではなく1記事の単発です。写真も撮ってほしいと言われました。え・・・。資料を読んでちょっとmtgしたらふっとんでしまうので断りました。制作の管理職から後で謝られました。
この3つのエピソードの金額は、同業者に話せば必ず一緒に憤慨してくれるはず。それほど明確に安い案件しか断っていません。
安いだけならぜんぜんOK
ぶっちゃけてしまうと、ギャラがちょっと安いくらいなら私はまったくかまいません。なんならかなり安くても気にしません。
乗った客が近距離だとわかると途端に不機嫌になるタクシーの運転手さんがいますが、私は「いつも長距離の客ばかりなんてありえないでしょ」と考えています。短距離(低額)の客も長距離(高額)の客もお抱えにしてくれる(定期)客もいるのが仕事です。
「安くても、訂正や変更の負荷が少なく、好きにやらせてもらえる」なら、よろこんでお受けします。
「安くても、納期に余裕があり、こちらのスキマに合わせてmtgや提出日を組んでくれる」なら、よろこんでお受けします。
「安くても、この仕事を手がけたというだけで実績になる」なら、特に新人なら積極的に取り組むかもしれません。
でも、「安いだけ」で他の条件はいいという仕事はあまりないのが実情です。
安いだけじゃなく悪条件づくしだから断る
「無理です」とお断りするほとんどの仕事は、安いだけでは済まないものばかり。スケジュールがタイト、変更が多い、何度も提出させられる、いろいろ求めてくるのに撮影はできないしビジュアル費も出ないなど、総じて悪条件です。
そういう会社は「機会があれば今後ほかの発注も」と言ったりしますが、これまでの経験上、私は信用しません。いつもは常識的な価格で発注していて、初回の今回だけたまたま安価なのかはわからないし、安いならいつも発注している制作会社やスタッフのほうが頼みやすそう。今後の発注が本当にあるのかもわからないと感じるからです。
いつも発注してくれるクライアントが「今回は予算がないから安くお願いしたい」と言う場合はまったく気にせずありがたく受注します。何度も制作にかかわっていればクライアントや商品のことも知っているため、資料を読む手間なども少なく、初めてのクライアントの超安い仕事よりもずっと割りはいいのです。いつも一緒に仕事をしているので、こちらの負荷を減らそうと気を遣ってくれるのも想像できます。
この仕事を続けていると、悪条件づくしのクライアントはすぐにわかります。制作費がかなり安いとわかった時点でスケジュールや進行について聞くと、それらの条件も予想通り悪い。または営業さんが口をにごします。
人を動かすと一定のコストがかかると理解しているクライアントは、どの条件も極上とはいわないまでも、私が気持ちよく受けられる程度にそこそこによいのです。
では小春は結局は安くない仕事ばかり受注しているのかと思われるかもしれません。それも違います。基本的に代理店を通していない仕事のギャラは総じて低め。クライアントの会社規模も小さめです。ときには、そんなに安く受注してよいのかなとささやかな迷いが生じるのも事実。でも、気持ちよく接してくれ、スタッフを尊重し、訂正などを減らそうと努めてくれるありがたいクライアントもいます。予算はないけれどほかの条件はよいケースに該当します。
安いだけで断るわけではなく、安いだけじゃないから断る。
これが、新しい仕事を断る理由です。
ギャラ以外で断る理由
本当にごくたまにですが、あります。それは、スケジュールのバッティングです。
この日に有名人の取材があってその予定はどうしても動かせない。そしてここでライティングしないと出稿できない。そんな状況の依頼をいただいたときに、あいにくほかの案件で出張などが確定していたといった場合です。
ライティング作業とライティング作業のバッティングならどうにでもなります。代理店や制作会社に調整をお願いすればなんとか対応してくれるし、なんなら私が徹夜すれば済む話。でも、外部の方が絡んだ予定が確定していると、物理的に無理なのでお断りするしかありません。
そして、主にこれらは新しい案件を断るときの話。お付き合いのある仕事先や継続している案件を断ったときの話はまた別の機会に書きます。
安すぎるギャラを提示されたら?
エピソードとして書いたような安いギャラの仕事を実際にいただくことはめったにありません。気心知れた仲間に恵まれ、楽しく仕事をさせてもらっています。もし危険センサーが発動する安い案件がどこかから舞い込んできても、どんな条件か探りを入れて断れる図太さが私にはあります。
でも、そうはできない性格の人や、まだ判断できない駆け出しフリーランスの人もいるでしょう。そこで、安すぎるギャラの案件をすぐには断れず、どうしようか迷った場合は、
- 納期
- どのように進めるか(工程)
- ビジュアル関係の予算(予算の厳しさを見る目安)
- 途中で終わった場合の支払い(直取引の場合)
などを確認するのをおすすめします。受注を決めたら、「ありがとうございました。このようなスケジュール(や提出回数etc)で進めさせていただきます」とメールを送り、書面に残しておきましょう。間に代理店やきちんとした制作会社が入っている場合は私ならそこまではしませんが、何かあったときに自分を守るための事前確認は大切です。
最後に(まとめ)
「安さ」だけで断らない理由: 訂正回数が少なく進行がスムーズで気遣いもありそうなど、ギャラ以外の要素がよければ断りません。
断るべき「悪条件」の判別: 「低予算かつ、スケジュールが過密、修正が多い、ビジュアル費も低い」といった悪条件が重なる案件は疲弊することがほとんどなので辞退します。
プロとしての防衛策: 駆け出しの人などで決断ができない場合は、提示額に違和感があるなら納期や工程を詳細に確認し、メールなどで交渉内容を残すことが、自分自身を守ることにつながります。

