取材原稿は書くまでが8割

本記事では、私の30年にわたるコピーライター経験の中で、短時間でもいかに深く聞き出し修正と違和感の少ない原稿に仕上げるかという視点で、現場で実践している下準備や具体的な段取りをご紹介します。

経営者から有名人、研究者やエンドユーザーまで。さまざまな職業や立場の人にインタビューしてきました。取材環境や条件はさまざまな上に、撮影も絡んでいるので、臨機応変な対応も求められます。私の経験をもとに、取材の実務をまとめました。

200人以上に取材してきました

取材にはいくつかの性質があり、有名人のインタビューからそうでない人へのヒアリングのような意味合いの対面までさまざまです。

会社員時代は取材の機会はあったものの少なめでした。それでも、芸能人から開発者、一般の方々まで、ひととおりの取材は経験しました。フリーランスになって以降は請ける制作物の種類やバランスが変わり、取材が激増。芸能人、タレント、有名人、アナウンサー、経営者、開発者、医師、工場や農家さんなどの生産者の皆さん、エンドユーザーの皆さんなど、本当にいろ~~んな立場の人に取材しました。正確には数えていませんが、軽く見積もっても200人には会っていそうです。

向き不向きでいえばたぶん向いています

会社員時代の上司に「取材が上手」とほめられたことがあります。撮影に立ち会っていたデザイナーからも「他の人と(いい意味で)全然違う!」と言われました。

そんな私の取材への取り組み方を紹介します。

質問シートは儀式です

取材の前に「取材でどんなことを聞かれるのか事前に教えてほしい」と言われて質問シートをよく求められます。

私はシートの冒頭に「取材を受けてくれるお礼」と「こういうお話をうかがいたい」を記載します。「取材意図」という味気ないノリにならないよう、「こういうお話をしてほしい(=書きたい)」が何となく伝わるような書き方をします。取材を受けてくれる人というのは基本的に「いい人」であり、サービス精神旺盛です。ほとんどの人が取材の目的と私の願望を汲んでくれます。

その後に記載する質問のまとめ方や長さは、芸能人ならざくっと簡潔に、医師や研究者なら詳しめになど、相手によって調整します。

真面目に回答を考えてくれる人もいれば、全く見ていない人もいるので、質問シートづくりは儀式だと割り切っています。どうせシートに書いていないことも(話の流れによっては)質問するので。

また、芸能人のマネージャーさんは現場のお仕事が本職。「何聞かれるの?事前に知らせて」と一応言ってはみたけれどそれも儀式だと事務所やマネージャーさんも思っているかもしれません。

高価でも難解でも情報は入手します

取材対象者について事前に知識を得ておくことは、取材でなくても仕事として当たり前です。取材して聞いたことをただ原稿にするわけではなく、クライアントの目的や制作物の着地点を理解し、情報を集め、整理した上で取材し、その内容を活用して原稿を書きます。このような準備や進め方については「コピーライターの私が新しい案件で見るものとすること」でも紹介しています。

取材相手が芸能人なら過去の仕事を視聴します。過去のインタビュー記事や本も。倍速で見てもいいし精読しなくてもよいのでとにかく触れておく。大ヒット作や代表作品のことは聞かれ慣れているので、案件にとってさほど重要でなければそこには注力せず、そんなに知られていないお仕事もおさえます。

あるとき、かつて時代を代表するような大ヒット曲を出した方を取材しました。その方が出演したかなりマイナーな映画を見てから挑んだところ、相手からそのお仕事に関連する話題が出たので、「見ました!」と感想も添えたところ、「え?あれを見てくれたの?」ととても喜ばれました。マイナーなお仕事はご本人がどう捉えているかはわからないため、私から話題にはしませんでしたが、相手がお話してくれたことで見事に実を結びました。

書籍も入手して目を通すとともに、現場に持参してバッグに忍ばせておきます。サインをもらうためではありません。この理由は後述します。

取材相手が医師や研究者の場合も、過去の著述をチェックします。高価な専門書や論文も取り寄せます。わからなくても目を通します。「素人にはよくわからないので一から説明してください」ではなく、「難しいので素人なりに調べたけどここが難しいので教えてください」が基本のスタンス。その方が話も早いです。

インタビュー15分で15段書きました

設定されたすべての時間を取材やヒアリングに割けるわけではありません。撮影が同時にセッティングされていれば、優先すべきは撮影です。芸能人の場合は遅れて来ることも珍しくなく、限られた時間の中で必要なことを聞き出さなくてはなりません。私は過去に15分の取材で新聞15段(しかも文字主体)を制作した経験があるほどに時間がないのです(幸いにもその広告は好評だったと聞きましたが)。

広告や販促の仕事で必ず聞き出さないといけないのは、クライアントの商品やサービスに絡む内容です。例えば敬老の日キャンペーンであれば家族の思い出や感謝について、健康食品の広告なら普段の健康習慣や食生活を、旅行商品の広告の場合は印象に残っている旅や旅先でのエピソードなど。クライアントとの事前の打ち合わせに基づいて取材します。

時間が少ない場合、その他の周辺ネタについては、持参した書籍や過去の記事が助けになります。ただし、取材相手が納得している内容もあれば、編集過程で本人の意図とはちょっと違った仕上がりになっているものもあり、ひどい場合は「勝手に書かれちゃったのよ」と言われるのはご愛嬌です。

「今日はお時間が限られているので、このエピソードについては詳しくお聞きできないのですが、この本に書かれている情報を活用してもよいでしょうか」と確認することがあります。100%OKをもらえますし、「ここはちょっと違うけどここは本当」などと教えてくれます。もちろんそのまま書き写さず、取材で聞いた事実として適宜活用します。

気になる表現は取材時に確認します

取材対象者のストレートな表現やリアルな言葉はありがたいものです。ですが、その商品では言えない内容が含まれていることもあります。それがキモとなる部分の場合は、クライアントに「ああおっしゃっていたけどこのようなニュアンスで書いてよいですか」と聞いて承諾を得ます。現場で聞きたてほやほやなうちに確認しておけばそのまま迷いなくライティングできます。

取材対象者にも「ぜひそのまま書きたいのですが、実はこの商品は諸事情でその表現はできないかもしれません。その場合はこのようなニュアンスでまとめてもよいですか」とクライアントまたは私から聞きます。こうしておくことで、「私、ああ言ったのに違うふうに書かれている」というトラブルの予防につながります。

待ち時間も取材時間です

取材時間は限られていると前項で書きました。それは、取材対象者と向き合う時間のこと。メイクや撮影の間、所属事務所のスタッフやマネージャーさんとは話せます。クライアントのや代理店の担当者に聞いてもらうか、または同席してもらって私が聞くかなどは場合によりますが、原稿に必要なことを確認してしまうのです。

「ご家族のお話を少しご紹介すると興味を持ってもらえると思うのですが、そのあたりは触れても問題ないでしょうか」

最近は“家族も芸能人”という人も多く、契約の兼ね合いもあるので、「明確に誰と書かずに『家族』なら大丈夫」などと答えてくれます。

また、プロフィールについても確認できるよい機会。原稿に掲載するプロフィールのボリュームを伝え、事務所のHPに掲載されている公式プロフィールを見せながら、「この情報をもとにまとめさせていただきますが、最近のお仕事で追加したほうがよいものはありますか?」と確認。私たちがクライアントの商品を少しでも露出させて一人でも多くの人に知ってほしいのと同様に、マネージャーさんたちは抱えるタレントの情報を少しでも伝えたいのが当たり前。「あの作品や映画を入れてください」と答えてくれたり、ご本人に確認してくれたりします。

こうした確認を現場で済ませておき、「ここの部分は事務所の方に確認済」と補足して出すと、見る人みんなが安心。カンプ提出後の修正も減らせます。

「そういうことは事前にメールで聞けばいいのでは」と思われるかもしれませんが、現実には必ずしもそう簡単ではありません。先にも書いたように、一般企業のようなメール対応でない場合もあります。先方にとってもっとも重要なのはギャラとスケジュール。そのような絶対に必要なことは代理店などがしてくれますが、私がライティングのために気にしている部分なんて付随的な枝葉にすぎません。顔を合わせて会話したほうがスムーズです。

医師や研究者の取材も書籍持参が欠かせません

医師や研究者を取材するときも、その取材のテーマと大きくかけはなれていない論文や書籍などは目を通します。私は事業会社が一般の消費者に向けた商品やサービスを販売するお手伝いをしている立場で、特に医学や薬学や工学に強いわけではありません。でもページをめくれば取材テーマと関連しそうな部分はなんとなくわかるのでチェックしておきます。

お会いしたときも「詳しくない一般の生活者の方にわかりやすく伝えたい」「私も難しくてよくわからないのですが」という前提を伝えます。ざっと取材が進んだ後かその途中かは話の流れ次第ですが、タイミングを見計らって書籍を出します。有名人も医師も人間です。自分の本を事前に読んでくれたとわかったら、よろこんでくれます。少なくとも怒り出す人はいません。「読んでくれたんですか」「難しかったでしょう?」などと言ってくれたり、執筆時のエピソードを話してくれたりします。

医師や研究者に対しては「はい、とても難しかったです。正直、すべてを理解はできません。今回お伝えしたいことに関連しているのはこのあたりかなと思うのですが特にここが難しくて・・・」と質問すると、取材に慣れていない真面目な方たちも饒舌に答えてくれます。このような職業の方は好きで好きでたまらなくて研究している人がほとんど。好きなことを聞かれたらうれしくていろいろと話したくなるのが人間の常なのです。

書籍などを持参して役立つもう一つのことは、掲載したい図表の確認です。掲載されているその図表が適切か、もっとよさそうなものがあるか、掲載しても問題ないか、学会や所属団体に許可が要るのか、先生の判断でOKなのかなどが一気に解決。「それは僕が描いた図だからどんどん掲載してくれて大丈夫!」と言われて驚いたこともあります。ほかの絵もたくさんくれて助かりました。

このように、短時間で最大限の取材をして相手の同意と素材を得るために「書籍などを読んで持参もする」が大事だと私は思っています。

基本、不機嫌な人はいませんが…

芸能人って気難しくない?不機嫌だったりしない?どんな人だった?とときどき聞かれます。基本的に私がお会いした方は感じよく対応をしてくれます。なぜなら、私のクライアントは芸能人にとって大切なスポンサー。本来の私の立場は単に仕事をいただいているだけの末端の存在ですが、私のことをそのスポンサー側の一員として見てくれているからだと思います。

芸能人の方がスポンサーをもてなすという意味で用意してくれた食事に同席したことも何度かあります。私は取材者として挑むので、何か使えそうな会話があればライティングに生かそうとメモを忍ばせつつの食事。純粋には楽しめません。

例外的なエピソードとしては、ほかの現場やチームで取材対象者を怒らせてしまって話を聞けなかったから再インタビューしてほしいという仕事を2回ほどしたことがあります。私たちはそのトラブルや、なぜ怒らせてしまったかなどを聞いていたので、事前にスタッフ内で入念に打ち合わせをして、当日は段取りをきちんと説明して取材対象者の希望も聞いてから撮影と取材をしたせいか、無事に終えることができました。

最後に(まとめ)

準備したという事実が大事: 事前の質問シート作成や書籍の読み込みは、相手との信頼関係を築くための第一歩。相手への経緯や準備した姿勢は、取材相手に伝わるものです。

限られた時間を最大限に: 取材時間が短いときは、持参した書籍で情報を補い、合間や周辺スタッフへ確認を徹底します。現場で合意形成まで終えておくと、後の修正やトラブルを防げます。

ときには特別対応も: 不機嫌な対応をされることは稀ですが、「難しい」」と聞いた取材対象者には念入りな準備と打ち合わせを重ねてから挑み、トラブルを防ぎます。